【最新記事の目次】
第1章:氷山モデルとは?行動は氷山の一角にすぎない
人の行動は、「顕在意識」の表れにすぎません。
本当の思いや価値観は、氷山の水面下=潜在意識にあります。
▲顕在意識(見える部分) └ 行動・言動(報連相・接客態度・表情) ▼潜在意識(見えない部分) └ 思考・感情・信念・価値観(例:怒られたくない、迷惑をかけたくない)
つまり、表面的な行動だけを指導しても、本質的な変化は起こりにくいのです。
第2章:なぜ“行動指導”だけでは部下は変わらないのか?
部下に「こうしてね」と伝えても、表面の行動しか変わりません。
それは、深層の思い込みや恐れが、そのままだからです。
例:
- 【行動】報連相をしない
- 【潜在意識】「報告すると怒られる」「信頼されてないから意味ない」
このように、「見えている行動」の奥には、信念や感情という見えない“氷山”が潜んでいます。
それに気づかずに「行動だけを変えよう」としても、表面的な改善しか起こらず、すぐに元に戻ってしまうのです。
補足:潜在意識は顕在意識の何倍の影響力を持つのか?
氷山モデルが語る「意識の層」は、心理学的にも明確な差があるとされています。
情報処理量の違い
種類 | 情報処理量(1秒あたり) | 比率 |
---|---|---|
顕在意識(意識的思考) | 約40〜60ビット | 1倍 |
潜在意識(無意識領域) | 約1000万〜2000万ビット | 約20万倍とも言われる |
極端な値もありますが、実務的には「潜在意識は顕在意識の9〜95倍の影響力」とされることが多いです。
行動決定の主導権
行動心理学では、人の意思決定の90〜95%は潜在意識によるものとも言われています。
店長としての視点
つまり、表面の「行動」や「言葉」よりも、
心の中の「感情」や「信じていること」にアプローチする方が、行動変容につながりやすいのです。
第3章:「聴く力」がすべてを変える|潜在意識に触れる“話法”
潜在意識に直接問いかけることはできません。
ですが、「安全な関係性の中で、問いかけと沈黙を重ねる」ことで、
部下の心の底にある価値観や信念が、ふと浮かび上がることがあります。
🔹ステップ1:まずは“肯定的な意図”を探る
NG:「なんでそうしたの?」
OK:「そのとき、何を大事にしてたの?」
🔹ステップ2:行動→思考→感情へと“掘っていく”
- 「やらなかった理由を聞かせてくれる?」
- 「やるときって、どんな気持ちのときが多い?」
- 「不安とか、何か引っかかってたことはあった?」
🔹ステップ3:感情→信念へと静かに近づく
- 「そう思うようになったきっかけってある?」
- 「昔からそう感じてた?」
- 「自分の中で“当たり前”って、どんなことがある?」
このような“問いかけの階段”を丁寧に踏むことで、
氷山の下にある本音に、自然と触れられるようになります。
第4章:事例|“氷山の下”に触れた会話
🎤 ケース1:報連相をしない部下
店長:「最近、報告が抜けることが多いけど、なにか気になってることある?」
部下:「…正直、報告してもスルーされるだけだと思ってて」
店長:「そう感じるようになったのって、いつ頃から?」
部下:「前のバイトで、報告したら“そんなこといちいち言うな”って怒られたんです」
店長:「それはしんどかったね。報告=怒られるって思ってる自分も、今いるのかな?」
部下:「はい。たぶん、怖くて避けてました…」
👉 行動(報連相しない)の背景に、「過去の否定経験」と「怒られたくない信念」がある
🎤 ケース2:やる気が感じられない新人
店長:「最近、あまり前向きな姿勢が見えないけど、何かあった?」
部下:「……頑張っても、評価されない気がして」
店長:「そう感じるようになったのは、いつから?」
部下:「高校の部活でも、頑張ってもレギュラーになれなくて…。結局意味ないんじゃって」
店長:「“努力は報われない”ってどこかで思ってる自分、いるんだね」
部下:「はい、だから最初から冷めてるフリしてたかもしれないです」
👉 「やる気がない」ように見える行動の奥には、“期待して傷つくのが怖い”という信念がある
🎤 ケース3:接客態度が雑になってきた中堅スタッフ
店長:「最近ちょっと接客が機械的に見えるんだけど、自分ではどう感じてる?」
部下:「…正直、仕事として割り切ってやってるって感じです」
店長:「割り切るようになったのって、なにかきっかけあった?」
部下:「前に一生懸命やったお客さんに、理不尽にクレーム言われたことがあって」
店長:「なるほど、それで“感情を込めない方が楽”って思ったのかな?」
部下:「はい。それ以来、人に心開くのやめてました」
👉 表面的には「雑な接客」だが、本当は「自分を守るための防衛反応」
第5章:信念は“書き換え”より、“ゆらぎ”を起こす
人の信念は、そう簡単には変わりません。
だからこそ店長の役割は、“押し付ける”ことではなく、
「揺らぎ」と「再解釈のきっかけ」を与えることです。
話法例:
- 「その考え、大事にしてるんだね」
- 「もし違う考え方があるとしたら、どんなのがあると思う?」
- 「これからの自分にとって、どんな考えが力になると思う?」
“答えを教える”のではなく、“問いかけ”によって、
部下自身が信念を見直すチャンスを作ること。
それが「信頼で育てる」リーダーの在り方です。
第6章:まとめ|育てるとは、心に触れる力を持つこと
氷山モデルを理解すると、人の行動の奥にある「感情」や「信念」に目を向けることができます。
「なぜそうしたのか?」ではなく、
「なぜそう思ったのか?」と問う。
この視点を持つだけで、関わり方は変わり、
信頼関係が深まり、部下は“自ら変わる”ようになります。
育てるとは、「行動を管理する」ことではなく、
「心に触れる力を持つこと」。
その入口に、氷山モデルがあります。
森友ゆうき