【最新記事の目次】
【連載小説・店長物語#07】バイトリーダーの反発|“正しさ”だけでは動かない現場
※本記事は、小説形式で描くフィクションコンテンツです。
実在の人物・店舗をモデルにしたものではありませんが、店舗運営に通じる本質を描いています。
こんにちは!森友ゆうきです。
人が動くのは「正しいから」ではない。
現場で起きた“バイトリーダーの反発”を通じて、蓮はその事実を思い知ることになります。
第七話:バイトリーダーの反発——“正しさ”では人は動かない
「……はいはい、わかりました」
投げやりな声で返したのは、バイトリーダーの佐伯康太だった。
検品リストの新しいチェックルールを説明した蓮に、彼は目を合わせようとしなかった。
「でも、それって結局、現場を信用してないってことですよね」
佐伯の一言が、蓮の胸に突き刺る。
佐伯は大学4年、入社2年半。
明るく、ミスも少なく、後輩からの信頼も厚い。
蓮が赴任する前から、この店を支えてきた“キーパーソン”だった。
——その彼が、明らかに反発している。
(何が気に障った? 言い方? タイミング?)
頭では理解しようとしたが、心はざわついたままだった。
「佐伯くん、ちょっと時間いい?」
シフト終わりの休憩室。
蓮は、おそるおそる話しかけた。
「……店長って、全部“正解”で動こうとしてますよね」
「え?」
「なんか、“こうあるべき”みたいな。
でも現場って、そんなにきれいに動かないじゃないですか」
「……うん。たしかに、そうかもしれない」
「別に嫌いとかじゃないんです。
ただ、ちょっと疲れるんですよ。正しい話ばかりされると」
佐伯はうつむきながら、それでも真剣な表情だった。
蓮はゆっくり頷いた。
「俺、たぶん“信頼されたい”って気持ちが強すぎて……。
それが、正論ばっか言ってた理由かも」
「……あー、それはなんか、わかります」
その帰り道、蓮は小さく笑った。
コンビニの光が滲む夜道を、蓮はゆっくり歩いた。
道端の自販機の明かりに照らされながら、蓮は足を止めた。
(信頼って、正しさよりも、“想い”なんだな)
ルールや効率も大切。でも、
“この人のために動きたい”と思えるかどうかは、
それ以上に大事なんだと気づいた。
「変わらなきゃいけないのは、俺の方だったのかもな……」
その言葉は誰に向けたわけでもなく、空に溶けていった。
でもその瞬間から、蓮の中で何かが、静かに動き始めていた。
🌟 今日の学び:「変わる力」は、自分の正しさを手放すことから始まる
“正しいこと”は、いつも人を動かすわけではありません。
特に現場では、感情・文脈・関係性が何よりも影響します。
「こうすべき」という論理も大事ですが、「あなたと一緒に考えたい」という対話が、変化の起点になります。
店長に求められるのは、“すべてを決めること”だけではなく、
“みんなが動きたくなる空気”をつくることも大切です。
📖 次回予告:「ひとりの声が、現場を変える」——サキの挑戦が始まる
第8話では、大学生スタッフ・サキが「あるアイデア」を持ち込むことで、チームに変化が訪れる。
若手の想いに、蓮はどう応えるのか——。