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【連載小説・店長物語#05】話せる空気|信頼は、休憩室のコーヒーから【フィクション連載】
※本記事は、小説形式で描くフィクションコンテンツです。
実在の人物・店舗をモデルにしたものではありませんが、現場のリアルな感情を描いています。
こんにちは!森友ゆうきです。
「信頼関係を築くために、あなたは何をしていますか?」
会議?面談?それとも声がけ?
実は一番大事なのは、“話せる空気”をどうつくるか、かもしれません。
第五話:話せる空気——信頼は、休憩室のコーヒーから
その日、蓮はいつもより10分早く店に着いた。
目的は一つ。「朝の空気」をつかむためだ。
バックヤードの休憩室に足を踏み入れると、すでに川原さんが制服に着替えていた。
「おはようございます、川原さん」
「あら店長、お早いですね」
「ちょっと、ここの空気を感じてみようと思って」
笑いながら蓮は、横の自販機でコーヒーを買った。
スタッフ用の小さなテーブルの上に、それを置いてから座る。
ただ、それだけ。
でも、その“何もしない時間”が、蓮にはとても大切に思えた。
数分後、サキがやってきた。
彼女の表情には、数日前のような硬さはなかった。
「おはようございます」
「おはよう。あ、コーヒー飲む?あったかいよ」
「あ、はい……」
サキが座る。
川原さんも、手にした緑茶をくるくる回している。
3人の間に流れるのは、沈黙でも会話でもない、**“空気”**だった。
「サキさん、最近どう? 少し落ち着いた?」
蓮の問いに、彼女は小さく笑ってうなずいた。
「……はい。昨日の閉店作業も、先輩が手伝ってくれて。
少しだけ、“大丈夫かも”って思えました」
「それはよかった。サキさんのがんばり、見てる人はちゃんと見てると思うよ」
「……ありがとうございます」
ふと、川原さんが呟いた。
「やっぱり休憩室は、いい場所ですね」
蓮はハッとした。
この場所は、会議室でも、売場でもない。
でも、“人の本音”が出てくる、唯一の場所かもしれない。
だからこそ、店長がここに座ることには、意味がある。
🌟 今日の学び:「信頼関係」は“話せる空気”から始まる
面談や1on1よりも前に必要なのは、「何でも話せそうな空気」。
雑談、笑い、沈黙、そして温かい飲み物。
それらが揃ったとき、人は少しずつ心を開いてくれます。
とくに新人や若手には、“用事のない会話”が安心の入口です。
店長が作るべきは「正しさ」ではなく、「話しやすさ」です。
📖 次回予告:「人が辞める理由」——最後のひと言がなかった夜
どんなにがんばっても、全員とは分かり合えない夜がある。
それでも店長は、背中を見せなければいけない——。