こんにちは!森友ゆうきです。
今から164年前の1859年。
アメリカ・ニューヨークで1軒の紅茶専門店が産声を上げました。
その店の名は、The Great Atlantic & Pacific Tea Company。
通称「A&P」――のちに“世界初のチェーンストア”と呼ばれる存在です。
【最新記事の目次】
◆ 第1章|A&Pとは何か?数字と風景で知る原点
- 創業:1859年(ニューヨーク)
- 店数:ピーク時で16,000店(1930年代)
- 年商:30億ドル超(現在価値で約5000億円以上)
- 業態:食料品主体のスーパーマーケットチェーン
- 主力商品:紅茶・コーヒー・パン・乳製品・精肉・青果・缶詰 等
アメリカ郊外の住宅地。朝9時、A&Pの店舗が開店します。
入口を抜けると、右手には焼きたてのパンの香りが広がるベーカリー。
奥には氷で冷やされた精肉コーナー、左手には缶詰とスパイスがずらりと並ぶグロサリー棚。
それを支えるのは、たった5〜7人のスタッフ。
誰がいつ、どこに立ち、何をするか――その全てが“標準化された仕組みで回っていた”のです。
▲ 店内の奥まで商品棚が続き、整然と陳列。配置の型が見て取れます。
◆ 第2章|多品目を“仕組みで回す”|A&Pの扱い商品と売場構成
創業は紅茶専門店でしたが、A&Pはやがて日常の食料品をフルラインで扱うスーパーへと進化します。
特に1920〜30年代のA&Pでは、以下の品目を主力としていました。
- ☕ 紅茶・コーヒー
- 🥖 ベーカリー(店内焼き)
- 🥩 精肉(牛・豚・鶏、ハム・ベーコン)
- 🥬 青果(野菜・果物)
- 🥫 缶詰・スパイス・乾物
- 🧈 乳製品(ミルク・バター・チーズ)
店舗は“ゾーニング”が徹底されており、以下のようなレイアウトが基本でした。
- 入口:グロサリー(缶詰・乾物)
- 右奥:精肉(氷冷ケース)
- 左側:ベーカリー(香りで誘導)
- 中央:青果・日配品
- 壁面:乳製品
この設計は、来店客の動線と売上貢献を計算したものであり、
「多品目でも混乱なく売るための仕組み」ができていた証です。
▲ 缶詰や乾物が整然と並ぶ棚。この並べ方も標準化されていた。
◆ 第3章|フォーメーションという思想|時間帯×人員の標準化
A&Pの最大の強みは「誰が入っても動かせる店」を作ったこと。
時間帯ごとに人員と役割が固定化されており、
店舗運営は属人化ゼロを目指して設計されていました。
◆ 中型店の標準人員配置
- 🧍♂️ 店長:巡回・クレーム・発注
- 💁♀️ レジ:2名(ピーク時は+1)
- 🥬 青果:1名(補充・鮮度チェック)
- 🥩 精肉:1名(対面販売・処理)
- 🥖 ベーカリー:1名(焼成・試食)
◆ 時間帯別フォーメーション
- 午前(9:00〜12:00):補充中心・レジ2名体制
- 午後(12:00〜16:00):静かな時間帯 → POP貼替や整理
- 夕方(16:00〜20:00):会社帰り客対応 → レジ3名・精肉とベーカリー応援配置
これらはすべて「時間ごと・役割ごとのスケジュール表」として標準化されており、
誰が入っても、迷わず・止まらず・動ける仕組みになっていたのです。
◆ まとめ|A&Pは、チェーンストアという思想の起源だった
A&Pのフォーメーション戦略や多品目管理の仕組みは、
単なる昔話ではありません。
それは、のちにウォルマートをはじめとする巨大チェーンの設計思想に影響を与え、
チェーンストア理論の礎そのものとなった存在です。
標準化、集中仕入れ、ゾーニング、人員配置――
現代のチェーンが当たり前のように行っている仕組みの多くが、
すでにA&Pで試行されていました。
つまり、A&Pを知ることは、“今のチェーンストアがなぜこうあるか”を知ること。
仕組みで売場を動かす。
人に頼らず、店が回る設計をつくる。
それは100年前の挑戦であり、
現在の小売業が立つ「原理原則の出発点」なのです。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!