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【店長物語#01】配属|“崩壊店舗”に送り込まれた28歳、信頼ゼロからの始まり
※本記事は、小説形式で描くフィクションコンテンツです。
しかしその中には、私が出会ってきた“本当の店長たち”の葛藤と希望が込められています。
こんにちは!森友ゆうきです。
あなたはもし、初めて任されたお店が、
- スタッフ全員から無視されている
- 前任店長はパワハラで突然の退職
- クレーム件数、売上ともにワースト
だったとしたら、どうしますか?
これは、そんな“地獄の初日”から始まる、ひとりの若き店長の物語です。
第一話:「おはようございます」が返ってこなかった朝
私の名前は、新海 蓮(しんかい れん)。28歳。
この春から、イオンモール川口前川店の店長になった。
大学を卒業してから、この会社に入り、
大きな成果もなければ、派手な評価をもらったこともない。
それでも、まじめに、遅刻もせず、ひとつずつやってきた。
いつか「自分の店を持つ」その日を、夢見て。</p>
崩壊の現場に立つ
埼玉県川口市。イオンモール川口前川店の朝は、いつもより静かだった。
バックヤードのドアを開けた瞬間、空気が一気に重くなるのを感じた。
「おはようございます」
蓮は、できるだけ明るい声で挨拶した。
だが、誰も顔を上げなかった。
タイムカードを押す手だけが、淡々と動いている。
レジ担当、品出し担当、カフェのスタッフ。誰ひとり、こちらを見ない。
——あれ?声、小さかったかな。
そう思って、もう一度。
「おはようございます!」
沈黙。
その瞬間、蓮の背中を汗がつたった。
配属の2か月前、本部の部長にこう言われた。
「新海、お前に任せたい店舗がある。
ちょっと荒れてるが、立て直せたら評価は間違いない。」
「チャンスだ」と思った。
5年間、現場一筋。真面目に、地道にやってきた。
初めての店長職——誰よりも気合が入っていた。
イオンモール川口前川店は埼玉の郊外型の大型店で、売上規模も大きい。新任に任される規模としては異例だった。
ただ、直近3ヶ月の数字は目も当てられなかった。
クレーム件数は月間50件超。
定着率は、アルバイトでさえ2ヶ月持たない。
前任店長は、部下への強圧的な態度で複数の通報が入り、急な異動となっていたため事前引継ぎは、ひと月前に電話しただけだった。
午前10時。開店と同時に客が流れ込む。
蓮は売場を回ろうとしたが、すぐに異変に気づいた。
前日の売れ残り商品が、そのまま。
レジのPOPが折れて倒れている。
値下げ札は前週のまま。
——あれ?前任の引き継ぎって…。
店長机の上にあった引き継ぎノートは、たった1ページ。
「挨拶はしっかり」「売上管理は本部指示に従う」など、内容は薄く、具体的な引継ぎはゼロだった。
午後、レジが混み始めた。
カウンターの奥で、若い男性スタッフが困り顔をしている。
蓮が声をかけようとした瞬間、別のスタッフが小声でつぶやいた。
「……あの人に頼んでも、意味ないですよ」
その言葉が、蓮の胸に突き刺さった。
それ以上、一歩も前に出ることができなかった。
閉店後、ようやく静けさが戻った店内。
片づけも手伝おうとバックヤードに向かうが、すでにほとんどのスタッフは退勤済みだった。
ひとりだけ、パートの女性が残っていた。
60代くらい。メガネの奥の目は、優しいようでいて、厳しい光を湛えていた。
「新しい店長さん?」
「あ、はい。今日着任しました、新海です」
「川原と申します。ここ、ちょっと大変ですよ」
それだけ言うと、川原さんはエプロンを畳みながら、笑って言った。
「お疲れ様です。明日も、頑張ってくださいね」
その夜、蓮はアパートに戻った。
店から徒歩3分。比較的新しい令和築1LDKのアパート。1階の角部屋が空いていたのは偶然だった。
家賃は8万円。このあたりで暮らすなら、買い物するのはイオンモールしかない——そう思って即決していた。
広さの割に静かで、内装も悪くない。
だけど今夜は、ベッドに入ってもまったく眠れなかった。
頭に浮かぶのは、返されなかった挨拶と、あの一言。
「あの人に頼んでも、意味ないですよ」
新しい店、新しい立場、夢だった“店長”という肩書き。
でも、現実は違った。
誰も頼ってくれない。
誰も見ていない。
——なら、私は、誰を頼ればいい?
天井を見上げながら、蓮は深く息を吐いた。
物語は、まだ始まったばかりだった。
🌟 今日の学び:「導く力」は、“信頼ゼロ”から始まる
どれだけ熱意があっても、店長が現場にとって「よそ者」に見えるうちは、誰も動いてくれません。
新しい現場に入ったときに必要なのは、「まず空気を読む力」や「観察する姿勢」。
挨拶が返ってこないのは、こちらが受け入れられていない証拠。
信頼は、最初からあるものではなく、“積み上げる”ものです。
📖 次回予告:「崩壊した現場」——辞めるスタッフ、崩れる棚、止まらないクレーム
「気づいたときには、誰も残っていなかった」
見えなかった問題が、次々と浮かび上がる。
蓮が初めて「本気で辞めたい」と思った日が、すぐそこまで来ていた——。