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“選ばせた”のではなく“選ばれた”|ユニクロ”フリース”の在庫戦略と選択の科学
こんにちは!森友ゆうきです。
かつて「フリースといえばユニクロ」と言われた時代がありました。1998年、ユニクロのフリースは大ブームを巻き起こし、当時の店舗にはカラフルなフリースが山のように積まれていたのを覚えている方も多いのではないでしょうか。
しかしその裏側では、“全色が売れたわけではない”という現実がありました。実はこの現象、『選択の科学』という行動経済学の名著が示す「選択のパラドックス」と深くつながっています。
第1章|1998年、フリース革命が始まった
1998年、ユニクロは1,990円という破格の価格でフリースを販売。しかも当時としては驚異的な40色以上のバリエーションで展開しました。
当時の顧客にとっては、「フリース=地味な防寒着」というイメージが強く、原色やパステルカラーを前面に打ち出したユニクロの売場は、それ自体がニュースでした。
- テレビCMでの大量露出
- ロードサイド店舗の拡大と購買体験
- 低価格 × 色の楽しさの掛け算
この3つが爆発的な売上を生み出し、結果的に半年で800万枚超を販売したと記録されています。
第2章|しかし、実際に売れたのは“たったの4色”だった
40色もあるのに、実際に売上が集中したのは以下のような「無難な色」。
- ブラック
- ネイビー
- グレー
- ベージュ(またはボルドー)
これはつまり「売れた理由=豊富な色数」ではなかったということです。
なぜこうした現象が起きたのか。ここから見えてくるのが、“人間の選択行動”の特性です。
第3章|選択肢は多ければ多いほど、売れない?──選択の科学に学ぶ
シーナ・アイエンガー著『選択の科学』によると、人間は選択肢が増えると、次のような傾向を示すとされています。
- 決断に時間がかかる
- 決断に疲れる(決断疲れ)
- 「間違えたらどうしよう」と不安になる
- 結果的に買わないという選択をする
有名な実験:ジャムの法則
・24種類のジャムを陳列した棚と、6種類だけの棚を比較
・多い棚のほうが“立ち止まる人数”は多かった
・しかし、実際に買った人数は、6種類の棚のほうが10倍
これはまさに、フリースの売場でも起きていたことです。
第4章|「選べる楽しさ」と「選ばせすぎない仕組み」は両立できる
ユニクロの成功は、単にフリースを安く売っただけではありません。
「色数の多さ」で話題を作りつつ、売上は“選びやすい色”に集中する──
この両輪で成り立っていました。
その後のユニクロは、「選択肢を一見多く見せながら、実際は売れる導線をつくる」という手法をさまざまな商品で実践していきます。
● 在庫戦略と売場演出の裏側
フリースは40色展開だったにもかかわらず、全色を均等に仕入れていたわけではありません。
実際には、以下のように在庫量を調整して「選ばれる色に集中」させていたのです。
- 売れ筋4色(黒・ネイビー・グレー・ベージュ)→ 大量生産・大量陳列
- 話題色(赤・黄・パステルなど)→ 少量生産・アクセント的に配置
この在庫設計により、お客様は「たくさん色がある!」という高揚感を得ながらも、
最終的には“安心できる定番色”を選ぶよう導かれていたのです。
売場ではそれら売れ筋色が山積みされ、自然と「人気」「定番」「安心」の空気感を醸し出していました。
つまりユニクロは、“選ばせた”のではなく、“選ばれるように整えた”のです。
第5章|売場づくり・接客にも活かせる「選択の科学」
では、現場の店長やマネジャーにとって、この知見はどう役立つのでしょうか?
● POPで選択肢を“絞って”あげる
例:「今、売れている3色!」「今年の人気カラーはこれ!」
● 種類は多くても、“見せ方”はシンプルに
例:フェイスアウトを人気3色で展開、他の色は棚下部や引き出しに
● 「選ばせ方」の工夫が、体験価値と売上を両立させる
接客でも「お客様の属性×おすすめの色」をセットで提示することで、「何を選べばいいかわからない」状態を防げます。
おわりに|「選ばれる設計」が売場の本質
ユニクロのフリース戦略は、「たくさん用意したから売れた」のではありません。
“選べる楽しさ”を演出しつつ、安心して“選ばれるように整えた”から売れたのです。
多すぎる選択肢は、お客様にとっては「迷い」や「不安」につながります。
本当に売れる売場とは、お客様が迷わず選べるように工夫された場所です。
在庫数、陳列位置、POP、接客トーク──
すべてが「選ばせ方」に影響する、ひとつの設計です。
たくさん見せることよりも、安心して選んでもらう導線をどうつくるか。
その視点こそが、現場の売上と信頼を生む“売場の本質”ではないでしょうか?