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14億人の市場で、日本式マネジメントは通用するのか?
インド小売の最前線レポート
ユニクロ・無印良品・ダイソー・ニトリ──インドに挑む4社の現地戦略から、日本の“店長力”が世界でどう通用するかを読み解きます。
こんにちは!森友です。
私はこれまで、数多くの店舗現場を見てきました。
でも「海外で、日本のやり方は通用するのか?」というテーマは、私にとっても大きな問いです。
この記事では、急成長するインド市場に挑む4つの日本企業を通じて、日本式マネジメントの可能性を一緒に考えてみたいと思います。
第1章|インド市場、数字で見るその可能性──“14億人”が動き出すとき
インドは、2023年に中国を抜いて人口世界一の国となりました。
その数なんと約14.3億人。そして平均年齢は28歳。若くて、伸びしろのある市場なのです。
- 労働人口は約9億人
- 中間層は今後5億人規模へ
- 都市化が進み、消費行動も大きく変化中
現在のインド小売市場は約135兆円。2030年には350兆円規模にまで拡大すると予測されています。
EC市場は年18%成長、ショッピングモールなどのモダンリテールも拡大中。
この成長スピードは、日本の高度経済成長期に似ています。
ただし、まだ8割近くをキラナ(家族経営の個人商店)が占めているのが現実。
つまり、チェーンストアが入る余地が大きいのです。
ユニクロはすでにこの市場で、前年比60%超の売上成長を記録。
「品質にお金を払う」価値観が、インドでも少しずつ根づいてきています。
第2章|“日本流”の限界と可能性──インドに挑む4社の戦略を読み解く
インドという未成熟市場に対し、日本の小売4社はそれぞれ異なるアプローチで挑んでいます。
ユニクロ:値下げせず、品質で勝負
2019年にデリーへ初出店。セールをせず、価格を崩さず、それでも売れる理由は、徹底した品質管理とシンプルな価値提案。
インドでは珍しい“定価文化”を根づかせる挑戦をしています。
無印良品:暮らしに馴染む商品で都市中間層を狙う
ムンバイなど主要都市で展開。素材やサイズ感を現地向けにアレンジ。
最大店舗はJio World Plazaに出店し、“無印らしさ”を保ちつつ、ローカライズを実践しています。
ダイソー:100円均一を捨てて多価格展開
インドでは100円ショップではありません。30〜250ルピーの多価格展開で柔軟に対応。
2027年までに50店舗、最終的に200店舗という強気の計画を掲げています。
ニトリ:暮らしそのものを提案する“仕組み輸出型”
2024年末、ムンバイに約2900㎡の大型店舗をオープン。
カレー用の金属皿など、インド仕様の商品も導入。
289店舗展開を掲げ、物流・商品開発・接客まで“ニトリ式”を現地で再現する挑戦に取り組んでいます。
第3章|チェーンストア理論はインドで通用するか?──“標準化”と“多様性”のジレンマを越えて
キラナ(個人商店)が主流のインドにおいて、日本式の「分業・標準化・マニュアル化」はなかなか受け入れられません。
では、日本のチェーンストア理論は通用しないのか?
実はその“構造”自体は十分に通用します。問題は「伝え方」と「納得の設計」です。
チェーン理論の3つの武器
- スケールメリットによる価格競争力
- 分業とオペレーションの効率化
- 教育とマニュアルによる再現性
ユニクロやニトリは、この全てを持ち込もうとしていますが、現地では「その理由」を伝える力が求められます。
「なぜこうするのか」を文化の前提に合わせて伝える必要があるのです。
これからは、チェーンオペレーションを“教える”のではなく、現地と一緒に創る“共創型マネジメント”が鍵となるでしょう。
第4章|“インド版・店長力”とは何か?──「伝わる指示」と「文化的尊重」のあいだで
「そろそろ休憩に入っていいよ」と伝えても、スタッフが動かない。
「どうしたの?」と聞くと、「彼が終わるのを待ってるんです」と返ってくる──
これは実際に、インドの現場で起きたエピソードです。
このやり取りには、日本とインドの“働き方”の違いが表れています。
休憩の指示が通じない? その理由
インドでは、チームで動く一体感が大切にされます。
1人だけ先に抜けるのは「気まずい」「協調性がない」と見なされることも。
たとえ上司の指示でも、“空気を読む行動”が優先されるのです。
マニュアルでは動かない。それは怠慢ではなく配慮
日本のように「時間通りに個別で休憩に入る」ことが効率的でも、
インドでは「誰と一緒にいるか」が判断軸になることが多くあります。
求められるのは、“翻訳された指示”
文化の前提が違えば、指示の伝え方も変わるべきです。
重要なのは、「なぜそうするのか」を相手の価値観に合わせて伝える力です。
- 「早く休憩して」 → 「君が先に休めば、次の人も安心して交代できるよ」
- 「これやって」 → 「今やると、みんなが後で楽になるよ」
“インド版・店長力”の本質とは
- 文化を尊重する感受性
- 行動の背景を理解する洞察力
- 納得感を生むコミュニケーション力
ルールよりも「人間関係」が優先される国では、
マネジメントとは“人を理解する力”に他なりません。
第5章|“共創”という未来戦略──日本発マネジメントは世界に通じるか?
それでも、日本企業はインド市場に次々と挑戦しています。
その背景には、“現地と共につくる”という視点の変化があります。
「共創」がキーワード
これからの海外マネジメントは、指示や模倣ではなく、共創と信頼が基本になります。
- ユニクロは現地法人主導での運営に注力
- 無印良品は現地の生活様式に合わせた商品設計
- ダイソーは価格帯を柔軟に設計
- ニトリは物流から現地とともに構築
「正しさ」ではなく「納得」で伝える
「これが日本のやり方です」ではなく、
「このやり方にはこういう価値がある」と、納得を生む言葉で伝える必要があります。
マネジメントに必要なのは「言語力」ではなく「文化翻訳力」。
それこそが、グローバルで活躍できる店長・マネジャーに求められる資質です。
おわりに|“人口減少の国”から、“人口成長の国”へ──日本流マネジメントの次なる挑戦
日本の小売市場は、少子高齢化の影響を受け、成熟のピークを越えつつあります。
縮小均衡のなかで、「海外にどう挑むか」は避けて通れないテーマです。
一方、インドの小売市場は、2030年に2.2兆ドル(約350兆円)規模にまで成長する見込み。
これは日本の市場規模(約150兆円)の2倍以上にあたります。
しかし、そのチャンスを活かすには、“売り方”だけでは足りません。
文化の壁を越え、人を動かすには、現地と共に創る力=新しい店長力が必要です。
インドでの挑戦は、まさにその力が問われる場。
日本で磨いてきたマネジメントを、海外で“翻訳”し“再構築”する時代が始まっています。
店長力は、まだ進化できる。
世界で活きる「人の力」を、現場から。
日本発マネジメントの新しい可能性は、ここから広がっていくはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。