こんにちは!森友ゆうきです。
この連載は、フィクション小説『店長物語』として、若き店長・新海蓮の成長と葛藤を描く物語です。
舞台は埼玉県のイオンモール川口前川店。リアルな現場の温度を伝えながら、共感と学びをお届けします。
第13話では、面接を経て採用したスタッフが初出勤の日を迎えます。
不安と緊張を抱える新人に、店長・蓮は何ができるのか——。
【最新記事の目次】
第十三話:はじまりの背中——信じて迎える、その一歩
「今日から、よろしくお願いします」
朝礼のあと、蓮がスタッフたちに紹介したのは、
この春、高校を卒業したばかりの新人・ユイだった。
面接では緊張のあまり言葉に詰まっていた彼女が、今、制服を着て立っている。
スタッフたちが順に「よろしくね」と声をかける中、
蓮はそっと一歩引いて、ユイの背中を見る。
(ようこそ。ここからが、はじまりだ)
緊張は、伝染する
「あの、新人の子……大丈夫かなあ」
レジ担当の佐伯が、休憩中にぽつりと呟いた。
「すっごい緊張してたから、声かけても反応薄くてさ……」
蓮は少し悩んだ末、こんなふうに返した。
「最初って、誰でも“周りを見る余裕”ないからね。
見られてるって思うと、さらに萎縮しちゃうし……」
「でも、教えるこっちもけっこう気を使うよ」
その言葉に、蓮はうなずいた。
(緊張は、伝染する。だけど、安心もまた伝わる)
背中を押すひとこと
夕方、蓮はユイに声をかけた。
「今日はありがとう。緊張したでしょ?」
ユイは、小さくうなずいた。
「……ミスしたらどうしようって、そればっかりで……」
「いいんだよ。ミスは、店長のせいだから」
ユイが目を見開く。
「君がミスしても、俺が責任取るから。
だから、そのぶん思いっきり学んでほしい」
その言葉に、ユイの肩がすっと緩んだ気がした。
それは魔法のような言葉ではなかった。
でも、伝わった。
(ここにいてもいいんだ)
誰もが、“はじまりの背中”を持っていた
夜、閉店後。
タイムカードの前で立ち止まったユイが、蓮に向かって頭を下げた。
「……私、またここに来たいです」
蓮は笑った。
「もちろん。来てくれたら、嬉しいよ」
そんな一言が、“居場所”になることもある。
スタッフが育つとき、技術よりも先に必要なのは、
「ここにいていい」と思える実感なのかもしれない。
蓮はふと、5年前の自分を思い出した。
ぎこちなく、余裕のない表情で、初めて出勤したあの日。
あの背中と、ユイの背中が、どこか重なった。
(あの日、自分にもこうしてくれた人がいたから──)
🌱 今日の学び:“迎え方”が、その人の未来を決める
新人にとって、初出勤の日は“勇気の一歩”です。
その一歩を「迎えられた」と感じるか、「試されている」と感じるか。
それは、周囲の“迎え方”によって決まります。
ミスを許すこと。
話しかけること。
「来てくれてうれしい」と伝えること。
どれも、特別なスキルではありません。
でもその積み重ねが、“この店にいたい”という気持ちを育てていきます。
そして気づけば、その新人が「誰かを迎える側」になっていくのです。