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【連載小説・店長物語#11】川原さんの覚悟|“去り際”に見えた、本当の支え【フィクション連載】
※本記事は、小説形式で描くフィクションコンテンツです。
実在の人物・店舗をモデルにしたものではありませんが、現場での人間関係や組織運営に通じる本質を描いています。
こんにちは!森友ゆうきです。
第11話は、ベテランスタッフ・川原さんが「退職」を口にする場面から始まります。
静かに店を支えてきた彼女の決断と向き合うことで、蓮は“組織の重み”を知ることになります。
第十一話:川原さんの覚悟——“去り際”に見えた、本当の支え
「店長、ちょっといいかしら」
閉店後の事務所。川原さんが静かに切り出した。
「私ね、今月いっぱいで、この店を辞めようと思ってるの」
一瞬、時が止まったように感じた。
「……理由、聞いてもいいですか」
「家の事情もあるけれど、でもそれだけじゃないの。
少し前から、自分の役割が変わってきたのを感じていて……」
川原さんは、ゆっくり言葉を選ぶように続けた。
「蓮くんが店長になってから、現場に風が入った。
若い子たちが、自分の言葉で動こうとしてる。
それって、とても良いこと。でもね、もう“私はいなくても大丈夫”かなって思ったの」
「でも川原さんがいないと、この店は……」
「ううん、それは違う」
川原さんはきっぱり言った。
「若い芽が伸びるときに、私のような人間が“無意識に日陰”をつくることもあるの。
だから私は、今、ちゃんと“譲ろう”と思った。
今の子たちは、育てばきっと私より強くなるわ」
蓮は、返す言葉を見つけられなかった。
(この人は、最後まで“誰かのために”考えて動いてる)
——去り際にこそ、人の真価が出る。
翌日の朝礼。
「今月で、川原さんが退職されます」
スタッフたちから、どよめきが起きた。
サキも佐伯も、言葉を失っていた。
「……でも、川原さんがこの店に残してくれたものは、これからも続きます。
優しさ、丁寧さ、そして“人を見守るまなざし”を、僕たちは受け継ぎたいと思います」
川原さんは、静かに頭を下げた。
その姿に、誰もが「背中で教える」ということの意味を知った。
🌟 今日の学び:「導く力」は、“去る人から学び、受け継ぐ勇気”
ベテランの退職は、現場にとって大きな痛みでもあり、チャンスでもあります。
“ずっといてほしい”と思う人が、自ら身を引く。
その勇気に触れたとき、残る人は育ち、背中を見ていた人が一歩を踏み出します。
店長にできることは、“送り出す覚悟”と“受け継ぐ文化”をつくること。
📖 次回予告:「はじめての面接」——新しい風は、応募の電話から始まった
ある日、一本の電話が鳴った。「アルバイト、募集してますか?」
蓮が面接に向き合うその瞬間、次の世代の可能性が動き出す——。