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【連載小説・店長物語#06】人が辞める理由|最後のひと言がなかった夜

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【連載小説・店長物語#06】人が辞める理由|最後のひと言がなかった夜【フィクション連載】

※本記事は、小説形式で描くフィクションコンテンツです。
実在の人物・店舗をモデルにしたものではありませんが、現場での人間関係に通じる本質を描いています。

こんにちは!森友ゆうきです。

スタッフが突然辞める——。
それは、店長にとって最もショックな出来事の一つです。
でも、本当に“突然”だったのでしょうか?

今回は、「最後のひと言」がなかった夜から始まる、新海 蓮の心の葛藤を描きます。


第六話:人が辞める理由——最後のひと言がなかった夜

「すみません、明日で辞めさせてください」

メールの本文は、それだけだった。

送り主は、レジ担当の長谷川。
週3勤務の中堅パートで、無遅刻・無欠勤。
いつも静かに仕事をこなしてくれる、安心できる存在だった。

だが、そのメールに返信しても、返事はなかった。

翌朝、ロッカーには私物がきれいに片付けられていた。
名札だけが、ポツンと残っていた。


「なにか、あったんでしょうか?」

サキが心配そうに尋ねる。

「正直、わからない。でも、気づけなかったのは事実だ」

蓮は、自分に言い聞かせるように答えた。

「昨日の帰り、長谷川さん、少し元気なかったです。
私が“お疲れさまでした”って言ったら、うなずいただけで……」

——あの時、自分が“店長”として何か声をかけていたら、違っていたのだろうか。


その日の夜、蓮はアパートの机に向かって、売上管理表を開いていた。

しかし数字は頭に入らない。
代わりに浮かんでくるのは、長谷川の静かな笑顔。

「あの人、もっと“ありがとう”って言ってもらえるべきだった」

気づけば、蓮はノートを開いていた。

【なぜ長谷川さんは辞めたのか】
・シフト希望が通らなかった?
・職場の空気が冷たかった?
・自分が、感謝を伝えきれていなかった?
・“何か言える空気”をつくれていなかった?

どれも正解かもしれない。どれも間違っていないかもしれない。

ただ、ひとつだけはっきりしていることがある。

——最後に「ありがとう」と言えなかったことが、悔しい。


翌日、蓮は全スタッフに向けてこう伝えた。

「一緒に働いてくれる人がいて、はじめてこの店は動いています。
どんな立場でも、どんな勤務でも、“ありがとう”を伝えることを大切にしたいです」

それはスタッフへの言葉であり、自分自身への戒めでもあった。

その日の夕方、蓮は休憩室のホワイトボードに、ある一言を書き残した。

『今日、心から”ありがとう”と言えた相手が1人でもいますか?』

小さな問いかけ。
でも、そこから何かが始まる気がしていた。

失ってからでは遅い。

でも、今ならまだ、守れる信頼がある。

新海 蓮は、その静かな決意を胸に、次の一歩を踏み出していく——。


🌟 今日の学び:「防ぐ力」は、“さよなら”の前にできること

スタッフが辞める理由は、一つではありません。
でも、「言えなかった」「相談できなかった」というすれ違いが多いのも事実です。

だからこそ、日々の挨拶・感謝・気づきが、“防ぐ力”になります。

辞める理由をゼロにはできなくても、
「この職場は好きだった」と思ってもらえる関わりは、店長がつくれます。

だから、今日という一日が終わるとき、

「また明日もここに来よう」と思ってもらえるような関わりを重ねていく。

それが、現場のリーダーである“店長”にできる、最も確かな「予防策」なのです。


📖 次回予告:「バイトリーダーの反発」——正論より、想いが足りなかった

現場で頼れるはずのバイトリーダーからの反発。
店長・蓮が気づいたのは、「正しさ」だけでは動かない現場のリアルだった——。

▶︎ 第7話を読む

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