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【チェーンストア理論シリーズ②】アメリカのチェーンストアに学ぶ|ウォルマート・ターゲット・Kマートに見る小売の原点
はじめに|なぜ、アメリカに学ぶ必要があるのか?
こんにちは、森友です。
今回のテーマは「アメリカのチェーンストアに学ぶ」です。
そもそも――なぜ、わざわざアメリカを学ぶ必要があるのか?
それには、はっきりとした理由があります。
チェーンストア理論は、日本発ではありません。
アメリカの実際のチェーン企業を徹底的に観察・研究し、
日本型の流通に合わせて再構築された“輸入理論”なのです。
渥美俊一氏は、何度もアメリカに渡り、ウォルマートやKマート、ターゲット、シアーズといった企業を見て回りました。
彼が目にしたのは、「徹底的に合理化され、仕組み化された小売の世界」でした。
私たちが今、チェーンストアで働き、標準化されたマニュアルやVMDを使っているのも、
実はこうしたアメリカの思想が“祖先”にあるからなのです。
だからこそ、今いちど「原点に帰る」意味で、アメリカのチェーンを学ぶことには価値があります。
それは、現場の判断軸や講師としての伝え方にも深みをもたらしてくれるはずです。
第1章|ウォルマート ― 徹底的なローコスト経営の王者
アメリカのチェーンストアの中でも、最も象徴的な存在がウォルマートです。
「毎日が低価格(Everyday Low Price)」というスローガンを掲げ、
都市部ではなくあえて地方・郊外を中心に展開しながら、世界最大の小売企業に成長しました。
ウォルマートの強さは、その仕組みにあります。
- 膨大な購買データを活かした在庫管理
- 売れ筋を徹底的に集約した単品大量販売
- 自社物流ネットワークによる流通コストの最小化
- 店舗価格の本部統一による“勝手な値付け”の排除
この一つひとつが、まさにチェーンストア理論の教科書のような実践例です。
単なる仕組みが整っているだけでなく、それを徹底的に運用しきる文化こそが、ウォルマートの真の強み。
私たちが「標準化」「統一VMD」「本部指示に基づく値下げ」などに取り組むのも、
元をたどれば、こうした先人たちの知恵と実践がベースになっているのです。
第2章|ターゲットとKマート ― 明暗を分けた“選択と集中”
ウォルマートと並んで、アメリカで大きな存在感を持っていたのがKマートとターゲットです。
どちらも、かつては全米に数千店舗を構える巨大チェーンでした。
しかし今、Kマートはごく一部の店舗を残すのみ。
ターゲットは生き残りに成功し、都市部や若年層を中心に再評価されています。
なぜ、ここまで明暗が分かれたのか?
要因の一つは、「選択と集中」ができたかどうかにあります。
- Kマートは、広げすぎた品揃えと中途半端な価格戦略で“どっちつかず”に
- ターゲットは「安さ×デザイン」という明確なポジションで都市型需要をつかんだ
この違いは、実は日本の店舗運営でもよく見られる話です。
「何でもやろうとして、結局、何にも響かない」
そんな店舗運営になっていないか?
“売れる売場”は、実は“削ぎ落とす力”がある売場です。
チェーンストアの本質は「個店の個性」ではなく、個店に“強い型”を持たせること。
この考え方をターゲットは貫き、Kマートは見失った――その差が、今日の姿につながっています。
第3章|変われなかったチェーン ― シアーズとベッド・バス&ビヨンドの教訓
かつてアメリカ最大の小売業だったシアーズ、家庭用品の代表格ベッド・バス&ビヨンド。
現在は倒産・縮小に追い込まれ、歴史の表舞台から姿を消しつつあります。
その原因は、「変化に対応できなかったこと」。
- EC化(Amazonなど)への対応が遅れた
- データ活用・サプライチェーン改革が進まなかった
- 現場改善が進まず、顧客体験の“鮮度”が落ちた
特にシアーズは、かつて通信販売の元祖として君臨していました。
しかし、時代が「リアルからデジタルへ」と動いたとき、組織が硬直化してしまったのです。
これは他人事ではありません。
チェーンストアは“仕組み”がある分、変化が遅れると一気に崩れるリスクがある――。
私たちはこの事実を、肝に銘じておく必要があります。
第4章|ダラー・ジェネラルに見る「新しいチェーン」のかたち
近年注目を集めているのが、ダラー・ジェネラルなどのディスカウント系チェーン。
彼らは巨大なショッピングセンターではなく、小商圏・低価格・少人数運営に特化した“スリムなチェーン”です。
- 人口1万人以下の町にも出店できる「小型店モデル」
- 客単価は低くとも訪問頻度が高く、売上は安定
- PB商品が豊富で利益率が高い
- スタッフ数が少なく、教育・運営がシンプル
“大きくて便利”ではなく、“近くて手軽”が評価される時代に対応したモデル。
これは、日本のコンビニや都市型小型店舗にも通じるヒントになるはずです。
第5章|チェーンストア研修講師として、なぜこの歴史を知るべきか?
私は研修講師として、店長や若手社員の育成に携わっています。
その中で強く実感するのが、「仕組みを教えるには、“なぜ”を語れなければならない」ということ。
たとえば、
- なぜ発注は統一されているのか?
- なぜ商品を絞って大量に売るのか?
- なぜマニュアルを守る必要があるのか?
これらの答えを、理論の背景から語れることが、講師としての価値になります。
チェーンストア理論は、そうした問いに答えてくれる“軸”になるのです。
理論を学ぶことは、伝える力を磨くこと。
私がそう信じている理由が、ここにあります。
まとめ|原点を知れば、店舗運営に深みが出る
チェーンストア理論は、古びた理論ではありません。
アメリカで生まれ、日本で磨かれ、今もなお現場で“効く”法則です。
今回はアメリカのチェーンを通じて、“なぜ理論が必要なのか”を歴史的背景から見つめ直しました。
運営に悩んだとき、教育で壁にぶつかったとき、
原点に立ち返ってみてください。
そこには、必ず「理論」というブレない軸があります。
次回予告|理論を実践に落とした日本企業の“今”
次回のテーマは、ユニクロ・スシロー・セブンなど日本のチェーン企業の実践。
チェーンストア理論が、現場でどう活かされているのかを掘り下げていきます。
本シリーズ「チェーンストア理論 歴史から読み解く今店舗運営に生きるシリーズ」は、全10回でお届けします。
現場で働くあなたのヒントになる内容を、今後もお楽しみに!
最後に、チェーンストア理論をさらに深く学びたい方に、
桜井多恵子さんの著書『チェーンストアの教科書』は、
チェーンストアとは何か、なぜ標準化が必要なのか──
現場で働く人にも、組織をつくる人にも伝わる、
このブログで紹介した内容とあわせて読むと、チェーン運営の「